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Netflix『ドント・ルック・アップ(邦題)』から学ぶこと

2021年、Netflixの歴代視聴回数でも目を引く記録をたたき出した 、『ドント・ルック・アップ(原題:Don’t Look Up)』は、すでにご覧になりましたか?この映画は、研究者にとっても非常に興味深い、「サイエンス」について描かれています。

もちろん映画ですから、多少過激だったり、バカバカしさを感じるかもしれませんが、研究者にとっても貴重な教訓になりえる内容がよく表現されており、見る者に次のことを「ハリウッド流に」語り掛けています。

  • 研究者が成果を発表する必要性
  • 査読について
  • 学術界、産業界、政府の関係性
  • どこで学び、働いているかの重要性
  • 科学的コミュニケーションの重要性

研究の重要性がメインストリームで語られるのは素晴らしいことですよね。そして、この映画は明らかに、気候の危機と西洋社会について警鐘を鳴らしていると同時に、優れた研究とサイエンスコミュニケーションを強く推奨しています。

本ブログでは、この映画でおすすめしたい見どころをご紹介します。一度見た方も、それらを踏まえてもう一度見てみてはいかがでしょうか?

話題沸騰のサイエンス・ムービー

「ドント・ルック・アップ」は、科学的発見をテーマにした、ハリウッド流のコメディ・ドラマです。

あらすじは、ある日、PhD候補のケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)が、地球と直線的に衝突するルートの彗星を発見します。

ケイトのこの発見を、指導教官のランダル・ミンディ教授(レオナルド・ディカプリオ)があらゆる高度な数学で検証します。

この二人の科学者は、彗星の衝突までに、人々に注意喚起するよう急いで説得しようと試みるのですが、うまくいきません。

そのうえ、他の科学者達を除いて、テレビのニュース番組からアメリカ国防総省までも、誰も彼らを相手にしてくれません。

やがて、彗星は、アメリカ大統領のオルレアン(メリル・ストリープ)のレーダーにも捉えられます。そしてここからは、お金と産業界の欲が絡みはじめ、ミンディもまた、名声への誘惑にかられてしまうのです。

まだ「ドント・ルック・アップ」を見ていない方のために、ここでのネタばらしはこれくらいにしたいと思います。

皆さんもご存じのように、科学を伝えると言う事は、確かに大変なことです。この映画のように、たった1日や2日で致命的な彗星を見つけることはないでしょうが、何かを発見することはあるかもしれません。研究者としてのキャリアを築き、人間関係を理解し、そして自分の研究をいかに伝えるかで、それが重要なものとなるか、単なる生き残りのためのものになるかの違いとして現れるのです。

出版の重要性

ディカプリオ演じるミンディ博士は、40代の頭脳明晰な天文学者であり、良い大学の教授でもありますが、映画サイトIMDb saysで言うところの、「低レベルの天文学者(low-level astronomer)」とされています。

ただし、彗星について人々に注意喚起する際、彼は「 I haven’t published in a while, so you probably haven’t heard of me .(しばらく論文を出版していないから、誰も私の事を知らないだろう)」とこぼすのです。

このセリフは、一般の人々にはあまりピンとこないかもしれませんが、研究者にとっては、この言葉の重みが違ってくるのではないでしょうか。

出版は競争です

学術界における競争は激しく、常にライバルたちより優位に立つ必要があります。論文の出版は、研究者の業績の証であり、専門分野をはじめ、様々な方面にインパクトを与える手段の1つです。また、より多くの研究資金を獲得し、自分や所属機関の評価を高める効果も期待できます。そしてなにより、研究成果を広く知らしめるための、有効な手段なのです。

インパクトファクター (IF)の高いジャーナルに掲載されると、研究者としての評判が上がり、論文の引用数にも反映します。著者たちは、高い評価を得ている研究者の論文を引用することを好むため、より多くの論文を出版することで、引用数も上がり、生産性の高さの証明へと繋がります。

これは、必須条件とされる場合もあります。

しかし、どのジャーナルで出版するかは、注意が必要です。ハゲタカ出版、ハゲタカジャーナルなどの、有料出版詐欺は避け、読者の幅を広げるために、プレプリントや、オープンアクセスなどのオプションも検討します。そして、目標ジャーナルを慎重に選ぶことが重要です。

ただし、極めて特殊な研究や、地域性の高い研究分野の場合は、インパクトファクターの高さがすべてではないでしょう。

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ミンディ博士は、なぜ論文を出版していなかったのか

話をドント・ルック・アップに戻してみましょう。ミンディ博士は、その聡明さとは裏腹に、自分の出版実績を恥じているように見受けられます。

ミンディ博士が「しばらく論文を発表してなかった」理由を考察してみましょう。 おそらく、次のような理由が考えられるのではないでしょうか。

  1. 出版に対するプレッシャーの少ない環境にいるから
  2. 良い研究アイデアがないから
  3. 専門分野や、大きな科学コミュニティで活動していないから
  4. 資金、人脈、インスピレーションがないから
  5. 個人的な問題

どれも研究者にとっては、現実的にありえる問題ではないでしょうか。これらの問題を打開するには、ネットワーキング、身近な人とのつながり、新しいアイデアを受け入れること、そして同僚からのフィードバックを得る事が大切です。

映画の中では、悲しいことにミンディ博士は研究成果を出版する必要性と、研究者としての役割を見失ってしまいます。地球に致命的なダメージを与えるであろう彗星が近づいているにもかかわらず、名声に負けてしまうのです。この事からも、ミンディ博士は個人的な問題を抱えていると言えるのではないでしょうか。

査読を理解する

ミンディ博士もケイトも、査読のプロセスを高く評価しています。映画の中でも、信頼性のある研究を暗示する際、査読について実に12回ほど言及しているのです。メジャーな映画で、これ程までに査読について触れるのは、稀で、これまでに作られた映画の中では最多かもしれません。

そのことから、この映画では、少なくとも基本的なレベルにおいての査読の重要性を、正しく伝えていると言えるでしょう。

査読は質の低い研究を排除し、優れた研究の実を検証するための金字塔であることに変わりはありません。しかし、査読のプロセスもまた完璧ではなく、現在進行形で必要な進化を続けている最中です。

査読の主な役割は、

  1. 質の高い研究が出版されるためのフィルターとして機能します。査読者は、研究の妥当性、重要性、独創性を判断します。
  2. 方法論、論理、言語の問題を指摘し、出版にふさわしいレベルになるよう、論文の質の向上を目的とします。

以前のブログ記事で説明した通り、査読は完璧ではありません。

映画の中ではくだらないテレビ番組の司会者や、アメリカ大統領がそれを無視し、それがアイビーリーグ出身のエリートやNASAが査読しない限り、研究は有効でないと示唆するのです。

彼らが気にするのは、筋書きと権力だけなのです。この映画の出だしは興味深いのですが、残念ながら、脚本は研究者が書いていないことは明らかで、本来科学における査読の価値は、もっとうまく伝える事が出来るのではないかと思います。

変化を遂げる査読

「ドント・ルック・アップ」は、表面的にではありますが、きちんと査読に言及しています。それ自体は重要なことですが、この分野では物事はさらに発展しています。

また、この映画では査読がいかに物事を遅らせるか、極端な例を挙げて紹介しています。数か月、あるいは数年かかる事もあるのです。ですから、仮に地球に急接近する彗星を発見しても、このプロセスのために費やす時間はないかもしれません。

その点、数日で研究を公開することが出来るプレプリントは、研究の普及を加速させるためのソリューションの1つです。通常の査読の代わりに、コミュニティによる査読を受け、研究を改善してから、最終的に正規の査読を受ける事も可能です。

実際、COVID-19の研究でも、この方法の利点ははっきりと表れていました。COVID-19のような緊急性の高い環境においては、研究者は新しい発見を迅速に共有することが出来たのです。その中の多くはまだ検証されていなかったものの、プレプリントにより公開され、研究者は自分の研究が「盗まれないように」識別子を付ける事が出来、社会全体もまた恩恵を受けることが多かったと言えるのではないでしょうか。

産学官の関係性について

「ドント・ルック・アップ」では学者が彗星を発見し、地球を救うために彗星の軌道を変更しようと試みますが、アメリカ大統領は、自身の功績のために彗星を取り除こうとするのです。

産業界はと言うと、マーク・ライランス演じるピーター・イッシャーウェルは、スティーブ・ジョブスとイーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグに、ジェフ・ベソスを足して割ったような、なんとも不気味で無情なテクノロジー分野の大物として登場します。イッシャーウェルは漠然としたアイデアを持つ、厄介な存在であるにもかかわらず、億万長者であり、多額の寄付をしているため、常にオルレアン大統領も耳を傾ける相手なのです。

イッシャーウェルは、ロボットを使って彗星を採掘し、貴重な貴金属を採取する計画を立てており、その資金力と、大統領の後押しで、彼の大手ハイテク企業が彗星の乗っ取りを企てるのです。

役割分担の考え方

産業界がアカデミア代わり、彗星への対応を主導することで、この映画の中ではそれぞれの役割がこのようになってしまうのです。

  • 学術界: 科学を守り、正しい選択をするが、お金に目がくらむ
  • 産業界:利益優先、科学は推進しつつも、自分たちの利益は確保する
  • 政府:権力を持つが、寄付金に影響されながら、支配する

映画の中では、アカデミアの発見を政府が無視し、産業界が利益のために乗っ取る図式になっています。そして、学術界と根拠の確かな科学は後回しにされてしまうのです。

イッシャーウェルの「BASH計画」がどうなるかは、映画を見てのお楽しみに。

ハーバード大学の研究によると、すべての産業において政治的コネクションを持つ企業が全体の3分の1を占めていると評価されていて、規制が厳しいほど政治家とのつながりが深いという結果も出ています。例えば、製薬、銀行、通信などの業界がそれに当たり、厳しい規制が敷かれがちで、それらの業界の民間企業は、政治家とのつながりが強いことが多いとされている点で、この映画の中の出来事は、あながち作り話とは言えないのではないでしょうか。

実際に起きていること

例えば、mRNA ワクチンは、学術研究と産業界の応用が相互に作用しあって、現在に至りますが、その使われ方や、不公平な流通、政府と繋がりの強い存在など、すべてが議論の対象になっているのも、また事実です。

より地域的で効果的な例を、エダンズの本社がある日本について見てみます。ここでは、この図にある三角形は現実的であり、決して奇抜なものではありません。政府からの資金提供を受けている学術界が発見をし、産業界はそれを実行に移し、政府はその実行を促進するといった仕組みです。

Image credit: Meijo University

映画の中ではこの3つの関係は災厄ですが、こうして見ると、悪い事ばかりではないのではないでしょうか。

出身校と勤務先

アメリカのアイビーリーグとは、映画の中で大統領の息子や首席補佐官が指摘するように「最高の学校」を意味します。残念なことに、政治の世界ではこのような見方をするのです。オバマやブッシュ父子、クリントンなど、過去100年のアメリカの歴代大統領の約半数は、アイビーリーグの出身で、英国の歴代首相55人中48人がオックスフォード、ケンブリッジ、エジンバラ、グラスゴーのいずれかに進学しています。

アイビーリーグやラッセルグループ以外は、価値がないのか

実際、ハーバードやイエールと言った米国の名門アイビーリーグは、多くの分野で高い評価を得ており、もちろん入学するのは容易ではありません。同じく英国では、ラッセルグループが、これに相当します。

Harvard – scientific communication
この写真はハーバード構内で撮られたものですが、ここに行かなくても大物科学者になる事は可能です。

エリート校は、本当に優秀な学校か

公立校や、発展途上国の研究者や学生は、能力や重要性が低いのでしょうか。

もし、そうであれば、多くの偉大な頭脳や発見の機会が失われることになるでしょう。オックスフォード大学、マサチューセッツ工科大学などに入学することは、非常に名誉なことです。しかしそれは富や特権、試験の成績や運に左右されることもあるのです。試験の点数が悪かったり、低所得者やその家庭など、生まれつき不利な立場にある人達はどうなるのでしょうか。

公立大学が世界のトップクラスにランクイン

Among Smithsonian Magazineのtop recent science discoveriesによると、米国のネブラスカ大学、ドイツのミュンヘン工科大学、スウェーデンのルンド大学などの国公立の大学がランクインしています。

映画「ドント・ルックアップ」では、ミシガン州立大学(MSU)の研究者が登場します。QSランキングによれば、MSUの天文学プログラムは世界第97位で、アイビーリーグのハーバード大学の第3位、同プリンストン大学の第9位を大きく下回っています。

だから、映画の中の厚顔無恥な参謀に、アイビーリーグではないと言うだけで、相手にされないのです。

この映画の脚本・監督であるアダム・マッケイは、この映画で「total dolts(おバカさんたち)が 、イエールやペンシルバニア大といったアイビーリーグに行ける一方で、それほど著名でもない大学でも、トップレベルの教育を受けられるという点を強調したかった」と述べています。

エリート主義が科学を傷つけ、地域や研究者を疎外してしまう

もう1つ、大学のエリート主義が独占効果として、科学にダメージを与え、途上国に不利益を与え続ける事への懸念もあります。特定の大学だけが信用されることで、学生はそこで勉強したり働きたいと思うため、その様な大学は優秀な人材を選ぶことが出来るからです。

これは、発展途上国からの頭脳流出の可能性に繋がる恐れがあります。優秀な頭脳が海外に流出したり、特定の機関に閉じこもる事で、地域社会の損失となるのです。これは、先進国でも同じことが言えます。

「ドント・ルック・アップ」では、少なくともアメリカ人の視点からはそれらの問題点を理解していることを表しています。多くの人は、ハーバードやオックスフォードは知っていても、ブラジルのUNICAMPや、ベネズエラのUniversidad Central de Venezuela、ナイジェリアのUniversity of Ibadanはどうでしょうか?どれも素晴らしい学校です。もちろん、ミシガン州立大学も。

サイエンティフィック・コミュニケーションは重要です

多種多様なトピックも、それらはすべて、コミュニケーションという傘の下にあると言えます。この映画では、コミュニケーションは破綻しており、科学者とその家族だけが(最終的に)共に理解しあっているようです。

ほとんどの人が、他人を理解していない

問題の1つは、相互理解の欠如です。学者たちは難しい話し方をするので、一般の人々には大変理解しにくいのです。(この映画の)政府や業界のほとんどがひどい人たちで、互いにコミュニケーションを取る事すらできません。彼らのコミュニケーションは、取引的で、自分(たち)が満足すればそれでよいように見受けられます。

科学者として、自分の考えの重要性を人々が理解し、共感できる言葉で伝えることを仕事にすることもできると知っていますか。例え、自分の研究が複雑な概念を扱っていても、その研究を行うのには理由がありますよね。

その理由は何ですか。

そして、それを科学の知識を持たない一般の人に、どう説明すれば伝わると思いますか。

Can you communicate your science?
Can you communicate your science to high schoolers? If not, why not?

学会などで自分の研究ポスターを、より多くの他の研究者に見てもらわなければならないのと同様に、一般の人々へ伝えることも重要です。

科学をもっと身近なものにするには、どうすればいいか

人々が、科学をもっと身近なものにするには、どうすれば良いでしょうか。先ず手始めに、次のような内容を実行することは可能でしょうか。

  • レイサマリーやグラフィカルアブストラクト、治験結果のまとめを使う
  • 専門用語の使用を抑える
  • 「研究バブル」の外にある、実社会への影響について深く考える
  • 非科学的なメディアを対象にしたプレスリリースを作成する
  • 一般の人々が何を考えているか聞いてみる
  • 教育機関を訪れ、研究について説明する

「ドント・ルック・アップ」は、ダークで悲惨なコメディ映画ですが、一般の人々が科学をどのように受け止めているかについて、多くの事を教えてくれます。私たちは、これらの浮き彫りになった課題に、真剣に向き合わなければいけないでしょう。

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