サイエンスは、実は社交性を必要とする職業です。
私達の研究者仲間は、私達にとって共同研究者であり、競合であり、指導教官、そしてレビュアーでもあります。そして学会は、私達が互いに出会い、交流するために、最も重要な手段であることは、間違いありません。
このような学会に対し、恥ずかしがり屋で内向的な人は恐怖すら覚えることがあります。多くの科学者たちは、少人数のグループや、一人で居ることを好みます。一般的に、科学者たちはパーティー・アニマル(いわゆるパーティー大好き人間)のイメージがないという現実を受け止めましょう。
学会に出席することに関しての記事や、ブログの不足はありませんが、これらの多くは学会に出席することに対する科学者の心理的ストレスに関しては、見落としがちです。だからといって、学会を最大限に活用するべきである、と言う既存のアドバイスが必ずしも間違っているとは言っていません。こういったアドバイスを提示するものの中には、大変素晴らしいものもあります。
本記事では、大規模な学会などに通常伴うプレッシャーや期待を軽減する方法について、いくつかの代案を紹介します。もしあなたが、人だかりや知らない人がいるところを好まない場合、特に役に立つものとなるでしょう。
背景を少しだけご紹介します
学会を通した交流は、17世紀に遡ります。当時は裕福で教育を受けた紳士たちが、新しいアイディアや理論を話し合うために、集まっていました。ありがたいことに、現在の科学的会合は、初期の頃に比べると、はるかに包括的に行われていますが、それでも多くの若手研究者にとっては、非常に神経を使うものです。
学会が恐ろしく感じる時もあるでしょう。 よって、学会に出席する際に、あれをしろ、これをしろ、と言ったアドバイスがあふれています。確かに、出席する前に、その学会から何を得たいのか考えることは大切です。そしてもちろん、どの研究者に会って話しをしたいか、考えておくのも良いでしょう。
しかし実際の学会は、あなたが想像しているものとは全然違う可能性があります!
学会は、特に1,000人規模の大きな国際学会だとしたら、興奮とカオスがごった返していることでしょう。とある著名な先生の講演の後に、その先生と会って話しをする段取りは済んでいますか?もしもその先生が、先生自身の古い付き合いの仲間たちによって、休憩室やパブ、ホテルのラウンジに連れて行かれたとしても、驚く必要はありません。そうなることは、誰かの落ち度ではなく、学会とはそういうものなのです。
このような話をすると、科学者にとって年間で最も大切なネットワーキングイベントについて、非常にネガティブな意見を述べているように聞こえるかもしれませんが、ここではそれは目的ではありません。
ここでの目的は、学会での体験へのアプローチの方法を再考してもらうことです。効果的に学会へアプローチする方法には、代案があるのです。
プレッシャーを感じず、期待もしないアプローチ
時々、抱えている学会のプランを窓から投げ捨てて、何が起こるか、学会の予測不可能な面を快く受け入れることで、学会での経験が、事前に考えていたものよりも、はるかに有意義なものとなります。学会に出席すること自体、特に講演したりポスター発表を行う場合は、充分ストレスを感じさせるでしょう。ちょっと一息つきましょう。達成できないかもしれない目標設定や、理想的な成果を求めることは不要です。
私たちが学会で感じるプレッシャーは、その規模が大きくなるほど増すでしょう。学会の人だかりだけでなく、自分自身からと、指導教官や同僚からの高い期待で、あなたは自分のホテルの部屋のベッドの中に潜り込みたい気持ちになるかもしれません。
自然と社交性に優れた人が居るように、科学者の中には、自身の仕事の一部としての社会的な面に、元々長けた人がいるでしょう。ただし、多くの人はその様な社交面に恵まれておらず、努力してその様に振る舞わなければならないでしょう。
なので、あなたが自分を少し恥ずかしがりで内向的だと思っていたり、大きな人だかりを避けたいと思っているとしても、それはあなたが、大きな学会に出席できなかったり、出席しても楽しめないという事ではありません。ただしその場合、あなたは学会に対して少し違う見方をする必要があり、一般的によくある参加者全員に向けた、同一のガイドラインに、あなた自身は当てはまらないかもしれない事を認識する必要があります。
次に述べる事は、4つのよく聞く学会プランと、あなたが学会に出席する際に試してみると良いであろう、4つの代案です。いつも通り、あなたにとって一番良いバランスを取れば良いのです。
科学的な会合をもっと楽しく、前向きな経験となるようにしましょう!
学会プラン 1: 事前にどのセッションに参加したいか予定を立てましょう
通常、これはあなたの専門分野に一番近いトピックを含んだセッションでしょう。だって、自分と同じ研究分野で働く人に会うのに、他により良い方法がありますか?
プレッシャーや期待をはねのけるための代案:自然に足が赴くところに進みましょう。
多くの場合、私達科学者は自身の研究分野や学習システムにおいて、『普通』であることにとらわれ過ぎています。しかし、継続的な科学の進歩には、学際的な研究が重要であることを、研究は繰り返し示しています。それ故、次に出席する学会では、ぜひ最低一つは、専門分野以外のトピックについて発表されるセッションに参加してみましょう。もしかすると、他の分野の研究者の話を聞くことで、驚くほどたくさんの新しいアイディアが浮かんでくるかもしれませんよ!
学会プラン 2: 出来るだけ多くの講演に参加し、有意義な出席経験にしましょう
学会の開催期間は、長くても1週間しかありません。せっかく多くの費用をかけて出席するのですから、出来るだけ多くのセッションに参加しない手はありませんよね。
プレッシャーや期待をはねのけるための代案:いくつかのトークセッションを”サボり”ましょう
確かに私達は、セッションを聞き、学ぶために学会に参加するのですが、終始講演会場に座りっぱなしだと、他の科学者と話しをする機会が得られません。ほとんどの学会には、参加者同士の生産的なディスカッションを促すために、小休憩やちょっとした空き時間がありますが、大抵の場合、会場内は多くの人で混雑しており、騒がしいでしょう。他の科学者と、一対一でゆっくり話す機会を得たくはないですか? その場合は、他会場で講演が行われている間に、ポスターが掲示されているホールを歩き回ってみましょう。恐らくあなたの他にも、あなたと同じく講演を“サボって”いる人が居るでしょう。講演に参加していない者同士、有意義な会話をする絶好なチャンスです。このような予定外の機会は、前もって予定していたものより、しばしば価値のあるものとなる可能性があります。たぶんその理由は、互いに特に何も目的がないので、プレッシャーを感じないからです。
この代案にはもう一つの利益があります。それは先ほど説明したものより、多少個人的なものになりますが、学会に出席している間、自分自身のための時間を持ってもいいのです。学会に出席することは、たくさんの初対面の人々と出会い、それらの人々の名前を覚え、印象付けることでもあり、精神的に非常に骨の折れることです。若手研究者には、多くの心理的なプレッシャーがあり、学会は様々な異なる複雑な感情を感じる職務の一要素だと考えられます。
他の参加者が講演に出席をしている間に、少しの間外を散歩してみたり、静かな場所に座ってコーヒーやお茶を飲むのもよいでしょう。もちろん、他の研究者と繋がりを持つために出席しているのですから、出来るだけその可能性を広げるべきです。しかし、いくつかのセッションに出席をせずにいる事で、平常心を取り戻せるのであれば、多少のおサボりも悪いものではないのではありませんか。
学会プラン 3: 講演者と出席者について事前に調べ、誰と話しをしたいかリストを作りましょう。
特定の人に連絡をして、学会に先駆けてミーティングの約束を取り付けることは、その他大勢から一歩リードしたと言えるでしょう。学会の前に、あなたが会いたいと考えている人に連絡をすることは素晴らしいことで、連絡を受けた科学者たちの多くはそのような誘いを嬉しく思うでしょう。
プレッシャーや期待をはねのけるための代案:もっと日和見主義者になって、その場の出会いを大切にしましょう。
あなたの研究分野の著名な研究者に会いたいと願う事で問題となるのは、他の人達も同じようにその研究者と会いたいと思っている事です。
あなたと著名な研究者とでは、学会で得る経験は全く別物です。彼らにとっては、学会に出席することは、学校の同窓会にも似たような、再会の場であり、古い友人や同僚に会ったり、ひょっとすると、最新の助成金を自慢しあっているのかもしれません。恐らく彼らも新しい出会いを求めているのでしょうが、彼らは多くの時間を古い友人たちとの時間に費やしているのです。もしあなたが作った『学会で会いたい人リスト』に入っている人と話しをするチャンスが訪れたのなら、気後れすることなく話しかけてみてください。ただし、もしその機会に恵まれなくても、落ち込まないこと。
もし、本気で繋がりを持つために、『学会で会いたい人リスト』を作ったのであれば、リストに誰が書かれているか、もう一度確認してみましょう。もしあなたのリストに、10人の教授の名前が書かれていたとしたら、あなたはもっと大きな全体像を把握していないのかもしれません。
学会に参加しているほとんどの人は、国際的に著名な教授達ではありません。あなたの目の前にいるほとんどの人は、あなたと同じ若手科学者たちです!その若手研究者たちが、研究者としての月日を過ごし、あなたと共にキャリアの階段を上り、そしてあなたの論文をレビューするようになったり、助成金や仕事を競う存在となるのです。
あなたの研究分野のトップにいる教授たちと繋がりを持つことは、重要なことに思えるかもしれません。しかし、彼らは将来的に(長い期間に渡り)その地位に居続けるわけではないのです。その名誉は、あなたと同じ若手の研究者に渡るのです。ここまで説明をすれば、あなたがコーヒーを片手に話しかけるべき相手が、著名な教授たちかどうか分かりますよね? 結局、有名な教授達が再会話に花を咲かせているのは、彼らが今のあなたと同じ、経験の浅い若手研究者の時に出会った相手なのです。
学会プラン 4: 限定された助成金は、大規模な国際会議の出席するために使うとよいでしょう。
学会に出席するには、参加費の他、学会の案内には載っていない旅費や宿泊費など、通常非常に高額の費用が掛かるため、キャリアの浅い研究者は、学会に数多く出席することが困難です。費用対効果を最大限に高めるためには、他の予算をやりくりして、自分の研究分野最大の学会に出ることだと考えられています。果たして本当にそうでしょうか?
プレッシャーや期待をはねのけるための代案:大規模な学会に一回参加する代わりに、複数の小規模な学会や、ワークショップに参加してみましょう。
小規模、または地域で開催される学会は、大きなものに出席をするより、明らかに費用を抑える効果があります。ただしそれは、小規模、または地域開催の会議を選ぶ上での初めのきっかけに過ぎません。例えば1,000人の参加者がいる学会で、何人の科学者と繋がりを持てるか考えてみてください。恐らく、40人程度ではないでしょうか。小規模な学会やワークショップは、大規模な学会に付き物の、大勢の観衆の面前というプレッシャーを排除した状態で、あなたが繋がりを持つ事が出来るであろう、ちょうど良い人数の科学者と、出会うことが出来るでしょう。 小規模な学会は、その雰囲気も大規模な学会とは全く異なります。もしあなたが、大勢の目前で話をすることに不安を覚えたり、普段から人とつながりを持つことが苦手であれば、小規模な学会はより個人的で、リラックスした気持ちで臨むことができ、将来有望な科学者として輝きを放つことが出来るかもしれません。
学会は、研究職において、特典の一つです
世界中を飛び回り、研究者としての興味を掻き立てるものについて絶え間なく話し、無限で無料のコーヒーが飲め、ほとんどお祭りのような空気さえ漂う、学会。研究者の中には、これが夢が叶った瞬間だと感じる人もいるでしょう。ただし、研究者全員が、学会にどれだけ多くのエネルギーが必要か、知っています。
不安な思いをしたり、学会の出席に恐怖すら感じているのは、あなただけではありません。多くの場合、学会に出席することへのプレッシャーは、私達自身の問題であることが多いと言えます。次の学会に出席する準備を始める前に、その学会に出席することで、何を得たいのか、少し時間を取って考えてみてください。プレッシャーを感じず、過度に期待しない姿勢を忘れずに臨めば、学会という、この職業の素晴らしい冒険の一つを、楽しむようになれるかもしれません。
肩の力を抜いて、さあ、繋がりを持ち始めましょう。